大判例

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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1196号 判決

控訴人

東急トレーデイング株式会社

(旧商号 東急興産株式会社)

右代表者

奥留圭

右訴訟代理人

落合勲

被控訴人

田原昭栄機工株式会社

(旧商号 田原機工株式会社)

右代表者

工藤良一

右訴訟代理人

長谷川勉

音喜多賢次

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し金一、〇二〇万円およびこれに対する昭和四六年一二月六日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人主張の請求原因事実中、控訴人が工業用合成樹脂の製造販売、産業用機械器具・工具類および計器類の販売、修理等を目的とする株式会社であり、被控訴人は合成樹脂加工機械・印刷機械・製袋機および工作機械器具の各製造、合成樹脂の成型・加工等を目的とする株式会社であること、控訴人を買主、被控訴人を売主として、昭和四五年一二月二五日、被控訴人製造の本件機械(中空成型機TA―五〇型二台)につき、代金一、〇二〇万円を昭和四六年一月三一日に控訴人が振出すサイト二五〇日の約束手形で支払い、機械の納入期限を昭和四五年一二月二五日とする売買契約(本件契約)が成立したこと、昭和四六年一月二二日被控訴人から控訴人に対し本件機械を納入した旨の通知がなされ、控訴人において満期を同年一〇月一〇日とする約束手形を振出して被控訴人に交付し、これを決済して売買代金の支払いを了したこと、被控訴人が本件機械を訴外日本成型工業株式会社(以下単に日本成型という。)滋賀工場に搬入したこと、以上の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二〈証拠〉に前認定事実を総合すれば、訴外会社は、プラスチツク成型等の業務を営む会社であつて本社および工場を西宮市下大市東町一三八番地においていたが、かねて本件機械を割賦払の方法で入手したいものと考え、被控訴人に対し昭和四五年一〇月ころ、納期を同年一二月末ころとし、代金は分割払の方法で本件機械を購入したい旨を伝えるとともに、その取引の仲介をする適当な商社の斡旋を求めていたこと、控訴人は、機械類等の取扱商社として、製品販売代金の早期回収を望む製造業者(メーカー)と、機械類の買受を望みながら手持資金の不足から買受代金の長期延払を欲する需要者(ユーザー)との売買取引に介入し、自己資金をもつてメーカーから製品を買受けたうえ、金利、手数料等を見込んだ代金を割賦払させる等の方法でユーザーに売渡すいわゆる介入売買と呼ばれる取引をも業務として行つていたものであること、そこで被控訴人は、同年一二月初ころ、控訴人に対し、本件機械を控訴人において買受けたうえ、これを訴外会社に転売する方法で、本件機械の取引に介入されたい旨の誘引をし、控訴人はそのころ、担当社員をして、被控訴人担当者とともに訴外会社大阪事務所で訴外会社代表者中村謙一と折衝させたところ、訴外会社が控訴人の介入を得て代金延払の方法で本件機械の購入を望み、同月一二日に訴外会社から、本件機械を訴外会社西宮工場に設置するとして納期を同月二五日とする仮注文を受けるに至つたこと、被控訴人は、この間訴外会社との間で、本件機械の代金、納期、納入場所等について直接交渉したほか附属機具等の追加注文を受け、同月二三日ころまでには本件機械の試運転等に訴外会社の代理人として訴外小松邦彦を立会わせてその性能試験等を行い、同月二四日には出荷できる状態となつていたこと、他方、控訴人は訴外会社からの仮注文に基づき介入売買につき社内決裁の手続を取り運んでいたが、信用調査の結果によれば訴外会社の使用状況が良好でないとの判断に立ち至り、代金回収に懸念を抱き、被控訴人との間で、代金の回収が不能に陥つた場合の損害の負担につき話し合つた結果、同月二二日ころに、被控訴人がその場合の損害の三分の二を負担するとの確約(もつとも、この約束を証する書面である甲第七号証はその後である昭和四六年一月一五日付で作成された。)を得たので、昭和四五年一二月二四日ころ被控訴人に口頭で本件機械を被控訴人から買受けて訴外会社に転売する旨を通知すると共に、翌二五日付で訴外会社と被控訴人とで取決めた代金額に金利、手数料を加え、本件機械の納入場所を訴外会社とするほか、前記当事者間に争いのない契約内容の本件契約を締結し、同日被控訴人にこの旨の注文書を交付し、本件機械は被控訴人から訴外会社に直納することを指示したこと、控訴人は、被控訴人と右のように本件契約を成立させるとともに、同日付で、訴外会社との間で、本件機械を控人から訴外会社に、代金総額金一、二三二万四、二八五円としこれを昭和四六年一月三一日から同四八年一二月三一日までの間月賦で支払い、代金完済まで本件機械の所有権は控訴人に留保し、訴外会社はその間善良な管理者の注意をもつてこれを保管することとし、納入期限は昭和四五年一二月二五日、設置場所は西宮市下大市東町一三八番地訴外会社西宮工場、受渡場所は訴外会社指定場所とする等の約束で売渡す旨の割賦販売契約を締結したこと、以上の各事実を認めることができる。

三被控訴人は、本件機械の納入場所は、最終買主たる訴外会社に下請をさせていた訴外日本成型滋賀工場とすることに契約当初から控訴人、被控訴人および訴外会社の三者間で定まつており、被控訴人は納入にあたつて、改めて控訴会社担当者に納入場所を再確認し、これに従つて昭和四五年一二月二五日本件機械を右日本成型滋賀工場に搬入し、訴外会社の代理人たる訴外小松邦彦に引渡して納入を完了したものであると主張するが、原審証人渡辺喜文、同中村謙一の各証言中右主張にそう供述部分は前掲証拠に照らしていずれもこれを措信し得ず、他に右主張事実を認めさせるに足りる証拠はなく、かえつて、〈証拠〉と前認定事実を総合すれば、本件契約による納入場所は、訴外会社西宮工場と定められていたのに、訴外会社代表者中村謙一が控訴人の承諾を受けることなく昭和五二年一二月二四日ころまでに被控訴人に対し本件機械を日本成型滋賀工場に搬入するように指示し、同月二四日夜被控訴人工場から右滋賀工場に向けて発送させ、翌二五日同所においてその引渡しを得たこと、右中村が搬入先を同所と指示したのは、所有権が控訴人に留保されることとなつていた本件機械を、訴外会社が、右中村が代表者を兼ねていた訴外株式会社中村技術研究所(以下単に中村技研という。)の名で日本成型にほしいまま売渡すためであつたこと、被控訴人は、右のように、訴外会社代表者から本件機械の搬入先を日本成型滋賀工場とされたい旨の指示を受け、控訴人との間の本件契約に定められた納入場所と異ることを知りながら、控訴人には何等このことを連絡もせずに前記場所に搬入したこと、訴外会社は昭和四六年一月二二日ころ、被控訴人を通じて控訴人に本件機械の検収引渡しを完了したことを証する旨の証明書(甲第四号証、検収引渡しの場所の記載はない。)および「預り物件の所在又は設置場所」として西宮市下大市東町一三八番地訴外会社内の記載のある本件機械の預り証(甲第五号証)を提出し、控訴人はこれに基づき、本件機械が契約所定の納入場所に納入が完了し、訴外会社がこれを保管しているものと信じ、訴外会社から割賦代金支払のため中村技研(控訴人と訴外会社との間の前記割賦販売契約についての訴外会社の連帯保証人)振出の約束手形の交付を受け、一方被控訴人に対しては前記約定による約束手形を振出交付して代金支払手続を了したが、右中村技研は同年二月中旬ころ、次いで訴外会社は同年四月中旬ころ、いずれも不渡事故を起して倒産し、代金の支払いを受けることが不能に陥つたこと、控訴人が本件機械が日本成型に搬入されたことを知つたのは、同年二月中旬ごろ訴外会社の経営が危殆に陥つていることを聞いて調査した結果であること、以上の各事実を認めることができる。

したがつて、被控訴人の前記主張を採用することはできず、被控訴人は、本件契約所定の場所に本件機械を納入しなかつたものと認めるほかはない。

被控訴人は、さらに、本件契約による納入場所が訴外会社西宮工場と定められていたとしても、控訴人と最終買主たる訴外会社との契約上は、受渡場所を訴外会社の指定する場所と定めていたのであるから、現実に受渡業務を担当する被控訴人において、右訴外会社の指定した受渡場所に納入した以上、控訴人との契約に基づく引渡義務も、債務の本旨に従つた履行がなされたものというべきである旨主張し、控訴人と訴外会社の契約には設置場所が西宮市の訴外会社工場、受渡場所が訴外会社の指定場所と定められていたことは前認定のとおりである。

しかして、原審証人猿川雄造、同竹中至、同畑義信の各証言によれば、本件のように商社である控訴人がメーカーの要請によりメーカーとユーザーとの間の取引に中間売買人として介入取引をする場合においては、控訴人は直接売買の目的の検収引渡しに関与せず、メーカーからユーザーに直納させユーザーの検収証明書を受領したことによりメーカーから控訴人への納入もあつたものとして代金決済手続に移るのが常態であり、本件においてもこれと同一の取扱いをしたもので、被控訴人に対し本件機械の納入、検収等について控訴人が立会うことを求めたり、被控訴人への代金支払手続前に直接本件機械搬入の事実を確認したりすることをしなかつた事実が認められる。

しかし、控訴人は、本件機械は、訴外会社が西宮市所在の西宮工場に設置して自らこれを保管使用するものとして訴外会社との契約上その設置場所を同所と定め、所有権を留保して訴外会社に売渡すこととし、また、被控訴人との契約においてもそのことを前提として、納入場所を訴外会社と定めたものであつて、控訴人としては、たとえ訴外会社との契約上受渡場所を訴外会社の指定場所とされていても、設置場所たる訴外会社西宮工場以外の場所において受渡しを行うものとは全く予測せず、当然訴外会社に搬入されるものとして被控訴人に直納を指示し、被控訴人を経由して交付された訴外会社の検収引渡しを受けた旨の証明書により、契約どおりの場所に納入されたものとして、殊更その確認をなすことなく被控訴人に対する代金決済手続をとつたものであることも、前示各証言によつて認められるところであり、一般に、所有権留保付売買においては、目的物の占有保管者や占有場所等は代金の支払を確保するうえから極めて重要な事項であることを併せ考えれば、被控訴人が最終買主である訴外会社の指示があつたとはいえ、直接の買主たる控訴人に無断で契約に定められた納入場所でない日本成型滋賀工場に本件機械を搬入したことをもつて、本件契約の債務の本旨に従つた引渡義務を履行したものとは認め得ないものというべきである。したがつて、これと異なる被控訴人の前記主張は、これを採用し得ない。

四控訴人が、昭和四六年四月二〇日被控訴人に到達した書面をもつて、被控訴人に対し、一か月以内に本件機械を納入場所である訴外会社に納入すべきことを催告するとともに、右期限の経過を条件として本件契約を解除する旨の意思表示をなした事実は当事者間に争いがなく、被控訴人が右期限までに右納入場所に本件機械を納入したことの主張立証はないから、本件契約は右期限の経過とともに解除されたものというべきである。

五よつて、被控訴人に対し、契約解除による原状回復として、支払済の代金一、〇二〇万円と、これに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四六年一二月六日から支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人の本訴請求は、正当としてこれを認容すべく、これと趣旨を異にする原判決は不当であつて取消を免れず、本件控訴は理由があるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小林信次 滝田薫 鈴木弘)

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